山岸 昇司数年前まで私はリモデルを中心とした宝石店を経営しておりました。お客様がリモデルを希望される物の中にルビーを初めとする合成石リングが少なからずあり、お客様の「この石は何ですか」との質問に合成石であることを柔らかい言い回しでお客様を落胆させないよう配慮しながら正確にお伝えすることが一番気を使うことでありました。 これから各地の宝石店でリモデルが盛んになるとこれらの合成石と対面する機会はますます増えるでありましょう。ここで懸念されることでありますが、私たち宝石商の中に初めから合成石を軽視している方がおられると聞き及んでおります。お客様に答えて曰く「リフォームする価値はございません」曰く「これは偽物で宝石としての価値はございません」などなど。残念ながら、当該のリングを購入した時の日本の国力や時代背景、これを入手した経緯そして長らく愛用されたであろうお母様やお祖母様への大切な思い出などの情緒価値に思いを巡らせることも無く接客しお客様を傷つけています。 昔は日本の経済力は低く、大衆が宝石をめでる文化も乏しかったと思います。なおかつこれらを当時販売したのは紛れもなく私たち宝石商であります。たかだか5〜60年の間に日本の国力は富み宝飾文化は華やかになりバブル期には世界で2番目の宝石消費国にまでなりました。 戦前の宝飾文化はいかがなものであったのか、もっと進んで古代からの日本人の宝飾装身具に対する認識はいかがなものであったのか。それらを形成する背景としての日本の歴史的文化的社会環境を知らずしてより正しい理解はできないと思います。 願わくは貴会に参加させて頂き温故知新、日本の宝飾装身具の来し方行く末を学ばせて頂ければと存じます。
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